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第6話|クラゲのようにさまよってクジラにまるっと飲み込まれ

旧号

前説

やあ親愛なる読者諸豚、

先日、ふと思い立って天川村まで行ってきた。宿探しと予約は行きの道中でという、行き当たりばったりさ。このギリギリ感こそ一人旅の醍醐味と僕は勝手に思っているが、それはきっと大いなる勘違いだろう。

今回の目的は天河神社。6年前にその存在を知ってからいつかは訪れてみたいと密かに思い続けていた。天河神社といえばやはり、めぐのことを思い出さずにはいられない。最後に会ったのは4年前。「あたしヒーラーになる」と言い残してぱったり音信不通となってしまったが、その後どうしているのだろうか。

さて、6年越しの天河神社だが、案外感極まることもなかった。それでもバスの車窓から鳥居が見えたときは少し来るものがあった。途中大雨に降られたり、近くの温泉施設に行ったらヤンキーだらけだったりとまあ色々あったものの全部ひっくるめて楽しかった。

それではピンサロなみのさっくり感で旅の思い出を振り返るとしよう。

本編

2022年8月31日(水)

翌朝、近くの浜辺を散歩した。ドラえもんをぶちまけたような空と海がどこまでも続いていた。雑念はどこにも見当たらなかった。クラゲ気分でぷかぷかとさまよっていたら隣町まで来ていた。「さまようのは人生だけで十分さ」などと、わけの分からないことを吐き捨ててパリコレ並みのUターンを決めた。

わがらん家に戻ると山ちゃんが来ていた。朝食を食べようということになり、開店したばかりの近所のMIYABIという店へ向かった。入店すると絵に描いたような肝っ玉かあちゃんが出迎えてくれた。ぱっと目に止まったすうどんを注文。店主の濃いキャラとは打って変わってとても控えめな味付けだった。

食事を終え宿に戻ってきた瞬間、まるでヘルハーブ温泉に浸かったかのように僕はすっかりと腑抜けになってしまった。那智の滝へ行こうと計画していたが、とにかくもう体が言うことを聞いてくれなかった。このままずっとここでぐうたらしていたいと思った。

一時間後、どうにか重い腰を上げて宿を出た。電車を一本逃してしまい、新宮駅に着いたのは17時近く。気になっていたゲストハウスを目指すも途中で力尽きた。結局、駅前のビジネスホテルで妥協することに。

チェックイン後、近くを散策した。飲食店は一切見当たらずおまけに雨も降り出してきたので、コンビニでおにぎり2個とマネケンのワッフルを買っていそいそとホテルへ戻った。やっぱりあのままぐうたらしておくべきだったと強く後悔した。まさかぐうたらしなかったことを後悔する日が来ようとは夢にも思わなかった。

チョトマッテオニーサン(夜になると繁華街の片隅にぽっと現れる怪しげな中国マッサージの呼び込み風に)
これ移住記じゃなくてただの旅行記ネ?

正論過ぎてぐぅの音も出ない。と言いつつ先ほどからお腹はぐぅぐぅ鳴りっぱなしなんだけども。恐縮です(梨本さん風に)あとスペシャルマッサージの方もおなしゃす。

というわけで、那智の滝に行ったこと、その後またわがらん家に泊まったこと、アポなしで濱田氏を訪ねたがあいにく不在だったこと、6年ぶりにT氏に会ったこと、旅の最終日にスズキ氏から入居申し込みの審査通過の連絡があったこと、帰宅前に川崎駅西口のエクセルシオールへ寄りアイスモカ片手にひたすら日記を書き殴ったこと、全部まとめてスキップ。

そして、9月4日になった。僕はまた実家5.5帖の現実に舞い戻ってきた。クジラのごとくがばっと口を開けて待っていた日常に、僕は成す術なく見事丸ごと飲み込まれていった。これまでの1週間がまるで嘘だったかのように。

でも以前のような閉塞感はなかった。10月からは晴れて一小田原市民。その確かな未来が僕を明るく照らしてくれていた。このときもまだ熊野へ移住しようとは全く考えていなかった。

次号へ続く。

後記

あのままもし小田原に移住していたら、と時々ふと考えることがある。おそらく知り合いは一人もできぬまま、引き続き孤独な日々を過ごしていただろう。

小田原駅前のベローチェやドトールで小説を書いたり、近くの海を散歩したり、湯河原や箱根まで足を伸ばしてみたり。あれ、案外悪くないかも。

でもやっぱり、熊野で良かったなぁと思う。

●読後のデザートBGM

次号はこちら。

 

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