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第3話|マスをかく間にうっかり二か月半が経っていた

旧号

本編

あれれ、前説はないの?と思ったそこのあなた。着実に変態ブタ野郎への道を歩んでくれているようですこぶーる嬉しく思う。

読者とは育てるもの。その成功原理に従って、じわりじわりと少しずつあなたを調教してきた甲斐があったというもの。

とはいえ、別にそういう貴族趣味があるわけではない。あくまで出荷のためだ。だってブタを育てるってつまりそういうことでしょう?おっと、失敬。これはとんだブタに説法だった。

物事はいつだって無常で非情である。でもどうか安心して欲しい。やがて訪れる出荷の日まで、僕はもてる全ての愛をあなたに捧げると誓おう。

結局、前説っぽいの挟んでるじゃんと思ったそこのあなた。そうやってブーブー言ってると、最短出荷ルートですからね

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濱田神示を受けて以来、僕の日常は大きく変わ・・らなかった。すなわちパソコン画面を見つめながらマスをかきマスを埋める行為が粛々と繰り返された。

マスを埋める行為とは?
マウスコンピューターの赤いノートPCをバックパックに入れ「エクセルシオールカフェ 川崎ミューザ店」「サンマルクカフェ ラチッタデッラ店」「ベローチェ 川崎新川通り店」「ドトール ソリッドスクエア店」を順繰りと回り、コーヒー1杯で4時間ほど粘りつつちまちまと小説を書く行為のこと。

気絶していた方がはるかにましだと思えるぐらいの息詰まり。行き詰まり。どん詰まり。とどのつまり閉塞感に閉口。Hey Yo。性欲萎れて静養。Say Yo。

車は急に止まれないし、人は急に変われない。実家5.5帖のコンフォートゾーンがまさかCUBE(映画)になる日が来ようとは夢にも思わなかった。

現状を変えようと決心しながら、ただそれに甘んじるしかない現実。呆れ返ってもはや自己嫌悪感さえも抱かなかった。

とはいえこの時点ではまだ、熊野に移住しようなんて三こすり半ほども思っていなかった。あくまで次の旅行の候補地に過ぎなかった。僕の行動力の無さからすれば、県内で引っ越すのがやはり妥当だろうとも思い始めていた。

現実的な引っ越し先として挙がったのは茅ヶ崎、大磯、二宮町、国府津、鴨宮、小田原、真鶴、湯河原、相模原、藤野、少し飛び出して沼津。湯河原以外は実際に現地まで足を運んだ。二宮町ではいくつか内見もさせてもらった。

担当いただいた太平洋不動産のササゲ氏にこの場を借りて改めてお礼を伝えるとともに、泣く子も作り笑いを浮かべる自己陶酔ポエムをメールフォームから送り付けた蛮行についても深くお詫び申し上げたい。

今ならはっきりと言える。あれはなかった。当時はそれほどに切羽詰まっていたのだと思う。

これが7月初めの話で、その後は再びのマス×マス・デイズが続いた。とにかく暑すぎて物件探しどころではなかった。このタイミングでエアコンも壊れるわでもう散々だった。熱中症にも3度ほどかかった。気力は鰹節のようにみるみる削がれていった。

家探しを再開したのは結局8月の終わり頃。探し始めてすぐ鴨宮にピーンとくる物件を見つけた。すぐに内見を申し込んだ。

そのとき「せっかく小田原方面まで行くんだったらそのままちょいと足を延ばして熊野まで行っちゃおうか」という良からぬ考えがふいに浮かんだ。とりあえず小田原で一泊分だけ宿を取り、後はその時の気分で決めることにした。

そして迎えた内見当日、8月29日。あるいは親友の誕生日の2日後。だからなんだと言われたら返す言葉もないが、事実そうなのだから仕方がない。

とにかく、できたばかりの恋人の名前のタトゥーを入れちゃう黒ギャルぐらいのノリで8月27日は阿部君の誕生日なんだなと心に刻み込んでおいていただければ、イスラエルの民もきっと救われるだろう。

担当いただいたマイハウスのスズキ氏にもこの場を借りて改めてお礼を伝えたい。内見後、僕は何の迷いもなく入居申し込みをした。間取りは完璧だったし、徒歩圏内にヨークマート、デニーズ、海岸、川があって周辺環境も抜群だった。

順調にいけば10月からは晴れて小田原市民の仲間入り。それを想像したら遊戯王のカードパックを初めて買ったときぐらいにワクワクした。

意気揚々、不動産屋を出てみると絵に描いたような豪雨だった。映画「ショーシャンクの空に」のジャケットのような出で立ちでその雨を受けようとする気概は残念ながら僕にはなかった。

ここから最寄りの鴨宮駅までは徒歩15分ほど。傘は持って来ていない。万事休す。要するに詰み。チェックメイト。

雨宿りがてら一旦店に戻ってみると、そんなしょぼくれた僕を見かねたスズキ氏が「小田原駅まで車で送りますよ」と申し出てくれた。

こういうときの僕は、内心もうそうしてもらう気満々のくせに「えー、でもご迷惑じゃないですか~?」などと平気で答えるから実にしたたかで白々しい。

スズキ氏の大丈夫ですよを二度ほど聞いた後、列車の外側に飛び乗るインド人のような軽快さでもって颯爽と車に飛び乗った。

車内でも色々なことを話した。小説を書いていることを話すと「私のことはズリネタにしないでくださいね~」とやんわりNGをいただいた。

まあ今回は小説ではないので勝手にオッケー牧場だと思っている。もしダメでしたらその旨ご一報くださいね。ついでに連絡先とおっぱいのサイズも。

予約していた宿にチェックイン後、近場にあった「飯は美味いが常連だらけでやたらと居心地の悪い定食屋」でカツ煮丼を食べ、今日のことを振り返って、人々は時に踊り時に語り、宴はその後も朝方まで続けられた。

そして、夜が明けた――(効果音:トゥルトゥルルットゥー)

次号へ続く。

後記

え?まだ熊野に行かないの?と思ったそこのあなたへ。鷲巣麻雀編よりは確実に長くならないのでその点はどうか安心して欲しい。

その後のことは何も決めていないが、移住後のリア充っぷりを見せつけて承認欲求と自己肯定感に酔いしれるアホと化すかもしれないし、ひたすら真我について語り始めるかもしれない。

実際、熊野に来てからイベントごとや人に会う機会がとても増えた。先日も恋活イベント(しかも無料)なるものに参加してきた。その前には移住者や地元の方を含めた10名ほどでバーベキューをした。

どちらも人生初の出来事でピンクローター並みに心が震えた。書を捨てよ、街へ出よう。今の僕にとってこれほどおあつらえ向きな言葉はない。

こうして移住記を書いている間にも、日常では色々なことが起こり続けている。熊野に移住して良かったなぁと改めて思う。

●読後のデザートBGM

次号はこちら。

 

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