
個人ブログからの自選シリーズ。
親父がいつものようにトイレ掃除をしていた。今日はやけに熱心にやっているようだ。しばらくして求職中の母が「なーにやってるの」と金切り声をあげた。何事かと思い覗いてみると、ケーキナイフで便座の裏の汚れを削り取っていた。
食べ物に使う物でトイレ掃除をするという蛮行に言葉も出ない。ケーキナイフを使うのは今回が初めてだったらしい。そこは安心した。
それから親父は取り外した便座の戻し方が分からず母に丸投げした。私も耐えかねてさすがに注意した。結構きつい言い方になったがそれでも親父はへらへらと笑っていて全くのノーダメージ。やれやれ、とんだ問題児だ。
気を鎮めるためエクセルへ行った。それから小説の続きを書いた。初スタジオ後のカフェを出てホームで別れる場面。イヤホンを耳に押し入れて東京の街並みに浸った。最寄駅の一つ前の駅で降りてゆっくり歩いて帰った。一つ一つの出来事が思い起こされる。
帰ってきてから窓を全開にして一服した。親父のことはもうすっかりどうでもよくなっていた。親父だって何も困らせてやろうと思ってああしたわけじゃない。色々考えた結果がケーキナイフだったに過ぎない。
そもそも脳の病気に罹った人に対して当たり前を求めてはいけなかった。見た目は問題なくても中身はそうじゃない。親父は昔から他人を馬鹿にしたり障害者をからかうようなところがあった。だから親父に対する同情は全くない。それでも理解は示したい。でなければ、結局私も親父の二の舞になってしまうだけだ。
私たちはこうして日々試されている。少しでも選択を誤れば代償を払うことになる。親父のように。
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