このサイトには広告が含まれています

やがて子どもに還る

個人ブログからの自選シリーズ。

人間は歳をとると子どもに還ってゆくのだと親父を見ているとふと思う。そして母は次第に親父の母代わりになる。関係はここで完結する。息子の私は切り離された格好になる。

親父の場合は高次脳機能障害の影響も多少あるのかもしれない。だが元々から物事をあまり深く考えるような人ではなかった。いわゆる典型的なガテン系の人。

テレビを見ているとこいつ何歳だ?と聞く。母が答えるとふーん。食事をしているとこれ何だ?と聞く。母が答えるとふーん。終始こんな感じ。ただ聞くだけでそこから先がない。まるで子どもと同じ。

この無為な日々をどうにかしようとすることもない。仕方ないとただ受け入れている。それは一見すると覚者のようにも思える。でも人並みに欲はあるのでただ諦めてしまっているだけなのだろう。

与えられたことをただこなしてさえいれば社会生活はどうにかなる。生涯現役でいられるならばそれでも全く問題はない。でもいつかは必ず弾き出される日がやって来る。本人の気持ちとは無関係に。

平日カフェに向かう途中、一軒家の前を通るとテレビの音が漏れ聞こえてくることがよくある。その度に親父と同じように社会から弾き出されてしまったのだろうな、と勝手に想像し何だか暗い気持ちになる。

人は行為者ではなく世界も他人も私も存在しないと賢者は言う。もしそうだとしたら私が今抱いているこの気持ちは一体何なのだろう。いいや、違う。この気持ちを抱いている私とは一体誰なのだろう。

こうしてまた私は新たな概念に埋もれてゆく。

コメント欄

タイトルとURLをコピーしました